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悪魔に魅入られるコンクールジャンキー、のはずが。 ―ディアナ・カチョ(カクソ)のメフィストワルツ

Posted by ジュスマルダホス on 14.2010 極私的名盤   2 comments   0 trackback
先日、近所の中古CD店を物色していたら"Diana Kacso"というピアニストの輸入盤LPを見つけた。曲はリストのピアノソナタとショパンの幻想ポロネーズ、エチュードop.10-10である。ジャケットは若い女性の白黒写真。なんとなく若い時のピリスを髣髴とさせる風貌だった。初めて知る人だが、LPなので今ではそこそこのベテラン以上の人だろう。

レーベル名を見てみた。驚いたことに黄色い看板のあの会社である。へぇー、あの黄色い会社ってそんなもん出してたんやねえ、と感心すると同時に、そんなど真ん中の会社からリリースされているほどのピアニストなのに、何で今までこの人知らなかったのかと、自分の知識に少し恥じ入った。クラヲタとは、このくらいで恥じ入るいたって残念な生き物なのである。

それはいいとして、まあ、どこかのコンクールの優勝記念で1枚出したくらいなのかな、などと思っていた。というより、この人なんと読むのだろう。ディアナは分かるとして、csと連なる綴りからハンガリー系と考えると、「カチョ」あたりか。元の名前はoに斜めウムラウトのようなものがついて「カチェー」あたりかな。あるいはaの上にもウムラウトがついて「ケチェー」か。・・・そう考えながら、LP棚から去った。

ある日、youtubeをみていたら、画面右に出る「おすすめ動画コーナー?」の中に、この綴りを見つけた。サムネイル画像はピアノの前に座る白黒画像の若い女性。メフィスト・ワルツを弾いている。早速聞いてみた。

http://www.youtube.com/watch?v=Z_hXUIz0p4g



おほー、こりゃいい。この演奏がDGかどうかは分からないが、少なくとも彼女を捕まえたDGはさすがであると思わせる演奏。やるじゃないDG、やるじゃないカチョ姐さん。この曲を弾くくらいだから、テクニックはいうまでも無くすばらしく、ちょっと細身の音も瑞々しく跳ねる感じでいい。節度をわきまえたアルゲリッチ姐さんといった風情か(あの姐さんはわきまえないからいいんだけどね)。そして、自然でしっかりした構成力。落ちてほしいところに音楽が落ちるし、さあここから音楽が進むぞと身を乗り出したときに快適に進んでくれる。中間部のしっとりした情感もいい。

一番印象的だったのは、知と情との完璧なバランスの中に垣間見える、ちょっとした破れをつくるところ。これをどう説明したらいいか・・・もう一回聞いてみたらなんとなく分かってきた。なだらかな通過ポイントにちょっとしたアクセントをつけたり、上下降アルペジオの折り返しポイント(カーブ地点)をちょっとだけテンションとスピードを上げたり、低音にはつんのめって突進したり、なかなかスリリングに仕上げているのである。しかもリズムとして処理しているようなので無理がなく、余裕がある。あくまで「ちょっとした」破れであって、それが華となって非常に心地よいのである。遠心力を使ってひょいっと急カーブを曲がってスピンさせるといった感じであろうか。こういうところ、ちょっとアムランにも似ているような気もする。アルゲリッチ姐さんなら、よーしやってやるわよとアクセルを吹かして、砂煙をあげてズザーッと派手に見せるところですな。

一個だけ惜しいのが、クライマックスの部分。これ以上無理ーっと思ったのか、テンポががくんと落ちて変なルバートをかけてしまっている。そのテクニックならもうちょっと無理できそうにも思えるのだが・・・とちょっと残念だった。

とはいえ、これはいい演奏だ。しかし先ほど、やるじゃないDG!といったが一部撤回したい。せっかくいい人見つけたのになんでこの人を手放してしまったんだDG!でも、これは本人の意思で離れていったのかもしれないから、いいピアニストなのに何で復刻しないのかDG!という叫びも入れておきたい。

演奏に夢中になって、そういえば彼女について何にも語っていなかった。



ディアナ・カチョ Diana Kacso(この読み方でいいかどうか確信はありませんが・・・、日本語サイトのコンクール入賞者一覧では「ディアナ・カクソ」表記が多いようです。)

diana kacso

1953年リオ・デ・ジャネイロ生まれのブラジル人。それでリズムがいいわけね。どうやらコンクール荒らしのようで、1975年のショパンでは6位(1位がツィマーマン)、1977年のルービンシュタインでは2位(1位がオピッツ)、1978年のリーズでは3位(1位がダルベルト)、1978年のヴィニャ・デル・マールでは1位、1982年のジーナ・バッカウアーで2位と、あちこちで上位入賞を果たしている。入賞はしていないようだが、モントリオール、クライバーン、シドニー、チャイコフスキー、エリザベートにも出ていたというから、コンクール荒らしのなかでもかなりの兵である。しかし、現在ではとんと名前を聞かない。

メフィストの名演で思い出すのがセルゲイ・タラソフ。チャイコフスキー・コンクールで見せた、豪快かつしなやか、カチョが惜しくもテンポを落としたあの最難関部分を、傷を負いながらも凄いテンポでぶっ飛ばしたスリリングさが忘れられない。その前後に入れたというディスクは未聴だが、やはりすごいらしい。彼のメフィストに一目置いている人は結構多いようだ。そして彼もまたコンクールジャンキー。1989年、18歳のとき日本音楽コンクール2位で注目され、その後90年のチャイコフスキー4位に「甘んじて」から、96年のシドニーで1位になるも、2006年、つまり35歳でもイタリアのヴァルセージアコンクールを受けていたりする。20近くのコンクールを受け、上位入賞をしているにも関わらず、ピアニストというよりはまだコンクールから卒業できず、未だに現役のコンテスタントという感じである。

で、結論を急ぐと、その後コンサートピアニストとして表舞台に出てこないこの二人はコンクールというメフィストに魅入られたのでは・・・という、安易なオチを用意していた。

もっと結論を急ごう。
上の文章を書いていて、うーん、なんだかこの文章つまらないな、と思ってお蔵入りにしていたある日、スティーヴン・ハフのリストを手に入れたのだが、これがまたカチョと同路線のいい演奏だった。でも彼はコンクール・ジャンキーじゃないし、むしろコンクールとはあまり縁のないところで職人芸を磨いていたらいつしか神懸かったタイプである。いやあ、それにしても似ている。

そして、ハフの演奏もクライマックスが惜しい。彼のテクニックならインテンポでいけるはずなのに・・・って、全く同じ緩み方ではないか。これは・・・クサいぞ。

こうなると、聞き比べだ。全曲通してカチョ10.49、ハフ10:52(表示時間)。ほとんど変わりはない。

冒頭、ほぼ同じ速さで始まる。区別がつかない。

・・・

クライマックスの序奏がカチョは7:44から。ハフも7:44。緩み方も音色も何もかにも同じ。

・・・

コーダに入るのが、カチョ10:22、ハフ10:22。

・・・

ジョイス・ハットーさんっていましたよね。もうね、アレ級のクロ。言い逃れできないくらい同じ。一応CDになっている以上、どこの馬の骨か分からない匿名さんが挙げたyoutubeのカチョより、出所のはっきりしたハフのCDの方が信頼が置けると考えると、これはカチョさん完全に分が悪い。カチョさんが音源をアップしていないとしたら、アップした人ひどすぎるわ。どういう意図だろうか。カチョさんが自らアップしたとしても、ひどすぎるわ。どういう意図なんだか。

爽快な演奏だっただけに、これは後味悪すぎる。

カチョさんの芸風を探る旅は振り出しに戻った。今はカチョさんがジョイス・ハットーでないことを祈るばかりである。
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なんというオチでしょう。
ジョイス・ハットは本当に大変な事件でしたね。

ちなみに他にアップされてるリストの超絶は演奏時間から言ってもベレゾフスキーのものかと。。。
各曲の誤差が+-3秒程度でした。

2010.09.22 02:04 | URL | A太 #- [edit]
何と!こんなに早くグレー疑惑が出てくるとは!
となると、youtubeではショパンコンクールの実況録音だけがおそらく真に近いものなんでしょうかねえ。

第2のジョイス・ハットへとぐんぐん近づいていってるんですね・・・
LPで出ているリストを聞いてみたいものです。
2010.09.22 16:56 | URL | ジュスマルダホス #AG2oKwnI [edit]


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